安全配慮義務とは、従業員の生命や身体の安全、心身の健康などを確保して働けるよう配慮する義務のことです。職場での労働災害を未然に防ぐための、安全衛生管理上の義務ともいえます。
安全配慮義務違反の具体的な事例と防止対策を挙げていきます。以下の@〜Bは、安全配慮義務違反となるよく見るケースですが、CとDは、働き方や環境の変化によって、新たに安全配慮義務違反とならないように気を付けなければならないケースになります。
@ 事故・災害
製麺会社で働く従業員が製麺機に左手を巻き込まれて骨折した事例です。製麺機の刃にカバーをかぶせるなどの対策を行っていなかったことや、製麺機の危険性について十分な教育を行っていなかったことから、安全配慮義務の違反が認められました。なお損害賠償については、従業員側にも落ち度があるなどの事情も考慮されたため、従業員の過失割合が3割と認定され、企業は損害額の7割の賠償責任を負うこととなりました。
対策としては、機械に安全装置を取り付け誤操作による事故を防ぐこと、機械のメンテナンスを定期的に行うこと、正しい操作方法の教育を行うことなどが挙げられます。
A 過重労働
月100時間を超える時間外労働が継続して行われていた事例です。実際に体調を崩しているかは別にして、長期間に渡り長時間労働をさせているにもかかわらず、労働時間の減少のための対策を講じなかったことによる責任です。一般的に、過重労働による安全配慮については、従業員に何らかの病気や精神障害などが発症し、その要因が長時間労働であると判断されたことにより義務違反が認められますが、疾病の発症が判断基準とはならないケースもあります。なお過労死ラインとは「2〜6か月の平均残業時間が80時間」「1か月の残業時間が100時間」の水準となります。
長時間労働が従業員の健康に危険を及ぼすことは周知の事実ですので、企業による労働時間の管理や長時間労働などの対策は非常に重要です。
対策としては、勤怠管理システム等を利用して労働時間を把握すること、勤務間インターバル制度を導入すること、自宅へ資料の持ち帰りを禁止することなどが挙げられます。
B ハラスメント
暴言や暴行などのパワーハラスメントを受けて後遺症が残った事例です。ある従業員がパワーハラスメントを受けていることを上司が認識しているにもかかわらず、企業が何の対応も行わなかったことに対して、安全配慮義務の違反が認められました。
対策としては、ハラスメント防止に関する研修を行うこと、管理監督者に対してハラスメント発生時の対応について研修を行うこと、ハラスメントの相談窓口を設置して全従業員に周知することが挙げられます。
C 在宅勤務
在宅勤務を導入されている企業が増えていますが、在宅勤務時には直接従業員の様子を確認できないため、労働時間の管理が難しく、労働時間が長時間になる傾向があります。労働時間の管理が不完全であったり、長時間労働による心身の不調が見られた場合、安全配慮義務違反となる可能性があります。
対策としては、在宅勤務時の時間外労働、深夜労働、休日労働は原則禁止すること、業務に関するメールも時間外・深夜・休日は原則禁止すること、長時間労働について注意喚起を行っても改善しない従業員は在宅勤務を取り消すことが挙げられます。
D 副業・兼業
従業員の副業や兼業を認めている企業では、副業や兼業先での労働時間も考慮する必要があります。特に従業員が個人事業主として事業を行っている場合、兼業については注意が必要です。個人事業主は労働基準法が適用されないため法定労働時間の問題は生じません。そのため個人事業主として兼業している従業員への配慮は不要と考えられがちですが、企業はその従業員を雇用している以上、心身の疲労など健康への安全配慮を行わなければなりません。
対策としては、本業に支障をきたす副業・兼業は認めないこと、従業員に定期的に勤務状況などを報告させること(特に個人事業主の場合)、自身の健康を維持できるように自己管理を促すことが挙げられます。