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作成日:2025/07/25
【社会保険労務士が解説】熱中症の労災認定基準と企業の対策義務について
 社会保険労務士法人クリアパートナーズ所長の和田です。
 例年にも増して暑い日が続いていますが、夏場に増加する熱中症による健康被害も、労働災害として労災保険の給付対象となるケースがあります。熱中症は、必ずしも屋外の暑い場所で起こるだけではなく、屋内の高温多湿な環境(工場、倉庫、調理場など)でも発生し得ます。
 今回は、熱中症の労災認定基準と企業に求められる義務・対策について解説します。
 
 

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1.労災認定基準について

  労災保険が適用されるかどうかは、「業務遂行性」と「業務起因性」によって判断されます。
 
業務遂行性
 業務遂行性とは、従業員が会社の指揮命令下にある状態で熱中症になったかどうか、ということです例えば、会社の指示で業務に従事している最中や、会社の施設内で休憩している最中などに熱中症になった場合、業務遂行性が認められるケースが多いです。
 ただし、業務時間中であっても完全に個人的な目的(私的行為)で行動していた際に熱中症になったケースでは、業務遂行性が否定されることもあります。 
 
業務起因性
 業務起因性とは、熱中症になった原因が、仕事(業務)にあると判断できるかどうか、ということです。
 具体的には、職場の温度・湿度・換気などの作業環境が熱中症の原因となっている、あるいは、長時間労働や過重な作業負荷が熱中症の発症につながった、といったケースが該当します。
 医学的な見地から、業務と熱中症の発症との間に「相当因果関係」が認められる必要があります。 
 
 

2.企業に求められる熱中症対策の義務とは

 2025年6月1日から、企業は、従業員が熱中症を発症するおそれのある作業を行う際に、熱中症予防のための措置を講じることが義務付けられています。違反した場合は罰則が科せられる可能性もあります。
 対象となる作業とは、WBGT値(暑さ指数)が28度以上、または気温が31度以上の環境で、連続1時間以上、または1日4時間超えて作業が見込まれる場合などになります。屋外作業だけでなく、工場や倉庫などの屋内作業にも当てはまります。
 
  

3.企業に義務付けられている3つの対策

1.報告体制の整備
 従業員が熱中症の症状を訴えたり、具合が悪そうな同僚を見かけたりした場合に、誰に、どのように報告すればよいかの体制を整え、従業員に周知する必要があります。
 具体的には、報告責任者の氏名、連絡先、連絡方法などを明確にすることが求められます。さらに、職場巡視やバディ制度(お互いの体調を確認し合う制度)、ウェアラブルデバイスの活用など、積極的に従業員の体調を把握する仕組みを設けることも有効です。 
 
2.手順の作成
 熱中症のおそれがある従業員を見つけた場合に、迅速かつ適切に対応するための手順(緊急連絡網、搬送先医療機関の連絡先などを含む)を作成することが必要です。
 
3.関係者への周知
 整備した報告体制や作成した手順について、関係する従業員全員に確実に伝える必要があります。事業所の掲示板、メール、配布文書、朝礼などを活用して周知することが推奨されています。
 
 

4.自主的におこなうべき熱中症予防対策

 法的に義務化された事項に加えて、企業は以下のような熱中症予防対策を自主的に行うことが重要になります。
 
★作業環境の改善
・作業場所への日よけ、送風機、冷房設備、ミストシャワーなどの設置
・作業場所の近くに、涼しい休憩場所(冷房設備のある場所や日陰など)を確保

★作業スケジュールの見直し
・WBGT値(暑さ指数)が高い時間帯の作業を避ける、または短縮すること
・こまめな休憩を奨励
・単独での作業を避けること

★衣服の工夫
・通気性の良い作業着や、冷却機能のある衣服の着用を推奨

★水分・塩分補給の徹底
・休憩場所に飲料水や塩飴などを準備
・喉が渇く前に、こまめな水分・塩分補給を促すこと

★従業員の健康管理
・従業員同士がお互いに声をかけ合い、体調の変化に気づけるようにすること
・管理者は、従業員の体調変化を注意深く観察すること
・体調不良を感じたら無理せず休息を取るよう指導すること
・従業員自身も、日頃から体調管理(睡眠不足や不摂生を避けるなど)を心がけること
・持病のある従業員や、高齢の従業員には個別の配慮をおこなうこと

★教育と啓発
・定期的な衛生教育で、従業員に熱中症の初期症状・予防法を周知
・「無理をしない・我慢しない」という職場の雰囲気づくり

最後に

 熱中症は、企業側の管理体制次第で防げるケースも多く、防止義務違反があると安全配慮義務違反(損害賠償)に発展するリスクもあります。対策の有無が企業責任の判断材料になるため、書面化・記録化・教育の実施が将来のリスク対応にもつながります。
 熱中症は夏に限った問題ではなく、企業の安全衛生管理の姿勢が問われる課題といえます。労災認定の可能性や企業責任を正しく理解し、実効性のある対策を現場レベルで講じていくことが、従業員の健康と企業の信頼を守ることにつながると考えます。
 気になる点やお困りごとがありましたら、お気軽にお問合せください。



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