作成日:2025/08/22
【社会保険労務士が解説】雇用契約書を正しく作成・運用するためのポイントについて
社会保険労務士法人クリアパートナーズ所長の和田です。
雇用契約書は、労使間の信頼関係を築き、トラブルを防ぐために欠かせない書面です。特にスタートアップ企業や中小企業では、採用時の手続きが簡略化されるケースも少なくありません。その中で見落とされがちなのが、雇用契約書の作成と運用です。雇用契約書の記載内容が曖昧、あるいは取り交わしていない場合、後々大きな労務トラブルの火種となります。労働基準法第15条でも、労働条件の明示が義務付けられています。
今回は、雇用契約書を正しく作成するポイントと、典型的なトラブルを未然に防ぐための留意点について解説します。
▼この記事を書いた人 代表社員 和田 稔(Wada Minoru) 早稲田大学教育学部卒業。大学卒業後、約17年間大手企業にて店舗業務や婦人服の商品企画などの社会人経験を積み、その後社会保険労務士の道へ。令和2年に社会保険労務士法人クリアパートナーズを設立。一般企業での経験を活かし、幅広い業種・職種・企業規模のお客様のご支援実績多数あり。
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1.柔軟な働き方の実現に向けた措置について
雇用契約書の記載内容が不十分、または存在しない場合、以下のようなトラブルが発生しやすくなります。
●労働条件の認識違い
「正社員として雇用されていると思っていた」「土・日は必ず休みの完全週休2日制だと思っていた」といった誤解や、業務内容との齟齬が従業員の不満につながり、早期離職や訴訟に発展する可能性があります。
●賃金に関する認識違い
「残業代の計算が15分単位で切り捨てられていた」「固定残業代を超えて働いたのに追加支給がなかった」といったケースがあります。また、インセンティブや賞与の支給基準が明確でないと、会社と従業員の間に深刻な争いを招く恐れがあります。
●雇用期間に関するトラブル
契約の更新条件が明示されていない場合、「更新しなかったことが解雇にあたる」と判断されたり、「無期契約である」と従業員から主張されるリスクがあります。
2.雇用契約書を作成する際のポイント
適正な雇用契約書を作成するためには、以下の項目を必ず明記してください。
・労働契約の期間(有期雇用or無期雇用)
・就業場所・従事する業務(変更の範囲も含める)
・始業・終業時刻、休憩時間、休日・休暇、残業の有無
・賃金額(月給or時給)、給与の締日と支払日、残業代の計算方法
・退職・解雇に関する事項
これらを明文化することで、従業員の安心感を高め、トラブル回避に繋がります。
さらに、以下の点にも留意してください。
・就業規則との整合性
・賃金項目の明確化
基本給、各種手当、割増賃金を区分し、固定残業手当を導入する場合は、含まれている時間数と超過分は別途支給する旨を明示してください。
・試用期間の明記(初回の契約時に、試用期間を設定する場合)
・雇用契約期間を明記して、有期雇用の場合は更新条件の明確化
・業務内容の明確化
単なる職種名にとどめず、具体的な業務内容および変更の範囲を記載して、認識の齟齬を防止してください。
最後に
雇用契約書は、会社と従業員との信頼を築くための重要な書面です。記載内容の不備や曖昧な表現が大きなトラブルにつながるケースは少なくありません。労働条件を明確にして、適切に雇用契約書を作成・運用することが、労使間のトラブル予防に直結します。
気になる点やお困りごとがありましたら、お気軽にお問合せください。