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作成日:2025/10/10
業務委託契約と雇用(労働)契約の違い&注意すべきポイントについて【社会保険労務士が解説】
 
 社会保険労務士法人クリアパートナーズ 社会保険労務士の寺山です。
 「業務委託契約」というものがありますが、この言葉にどのようなイメージを持たれるでしょうか。
もしも「労働時間の管理や各種保険(社会保険・雇用保険など)へ加入させる義務がないので、企業としては管理の手間が省ける」というイメージを持たれているとすると、場合によっては足元をすくわれてしまう可能性があります。
 また中には「雇用(労働)契約といったい何が違うの?」という方もいらっしゃるかもしれません。
 今回の記事では、雇用(労働)契約と業務委託契約の違い、業務委託契約を結ぶ際に注意すべきポイントなどをご説明します。
 
 

寺山さん写真


▼この記事を書いた人
寺山 晋太郎(Shintarou Terayama)
一橋大学社会学部卒業。大学卒業後、鉄道会社にて車掌や運転士といった現場仕事から労務管理・社員教育まで幅広い業務を担当。自身のライフステージの変化により、企業活動における「人」にフォーカスする社会保険労務士に魅力を感じ資格取得。現在は、社会保険労務士として「人」を活かし「会社」を発展させていくことを大切に、幅広い業種・職種・企業規模のお客様の支援に従事。


1. 業務委託契約と雇用(労働)契約の違い

 両者の大きな違いは、「何に対して報酬が支払われるか」という点です。
 まず業務委託契約では、「成果物の完成」または「一定の業務遂行」に対して報酬が支払われる契約です。例えば建物を建ててもらう、動画や記事を作成してもらう、弁護士に法律対応を依頼する、などといったことが典型で、いわゆる民法における請負契約・委任契約等に該当します。
 一方、雇用(労働)契約は、「労務を提供すること」に対して報酬が支払われる契約です。企業に雇われて働く、いわゆる正社員やパート・アルバイト、契約社員などといった働き方はこちらに該当します。
 つまり、前者の場合と異なり、後者の場合は「提供された労務」に対して報酬を支払わなくてはなりませんので、報酬を支払う側にとっては、必然的に当該労務を管理する必要が生じます。(どのくらいの労務が提供されたのかが分からなければ、それに対する報酬も正確に支払えないためです)


2. 雇用(労働)契約における義務

 雇用(労働)契約において、雇用主には労働法等に基づき以下のような義務が生じます。
  • 労働時間管理
    • 日々の労働時間、休憩時間、残業時間や休日数などを管理し、法定の基準を破らないようにすること
  • 賃金管理
    • 労働時間に基づいた賃金を不足なく定期的に支払うこと
  • 保険管理
    • 条件を満たす労働者について、社会保険や雇用保険に加入させること
  • 安全衛生管理
    • 労働者の安全と健康に配慮し、作業する際の安全確保や健康診断を受けさせること
などです。
 なお、これらの義務は、業務委託契約の場合はほぼ※生じません。
 
※いわゆる「フリーランス法」の成立により、賃金支払い期日の設定・期日内の支払いなど一部労働契約に類似した規制が生じています
 
  

3.業務委託契約に潜むリスク

 上記のように、業務委託契約の場合は雇用(労働)契約と比較すると管理コストが低い面があるため、その点のみがクローズアップされがちですが、実際に結んだ契約が業務委託契約なのか雇用(労働)契約なのか、どちらなのかというのは契約の名称では判断されず、実態を踏まえて判断されることとなります。
 よって、名称は業務委託契約でも、実態からみて雇用(労働)契約である、と判断された場合、労働法に基づく義務を果たさなければなりません。具体的には
  • 未払残業代など、未払賃金の支払い
    • さかのぼって正確な労働時間を把握したうえで、残業時間が発生していた場合は残業代を支払う必要があります。それに加え、遅延損害金の支払いも必要となります。
  • 社会保険料の支払い
    • 社会保険への加入要件を満たす雇用形態だと判断された場合、契約時にさかのぼって健康保険・雇用保険に加入させる必要があります。もちろん、保険料もその間含め支払わなくてはなりません。
  • 健康管理、安全配慮義務
    • 条件を満たす者に対しては健康診断を受けさせなくてはなりませんし、安全に職務を果たすことができる作業環境を整える必要が生じます。
 

4. 労働者性の判断ポイント

 当該契約が業務委託契約なのか、雇用(労働)契約なのかを判断するポイントは「使用従属性」が認められるかどうかという点になります。
 使用従属性とは、「労働が他人の指揮監督下で行われており、報酬がその労働の対価として支払われている」ということです。使用従属性が認められると、雇用(労働)契約である判断される可能性が大きくなります。
 より具体的に申し上げると、以下の点を総合的に勘案して判断されます。
  1. 指揮監督下の労働であるかどうか
    1. 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
      • 発注者からの仕事の依頼や業務従事の指示などに対して、それを受けるか受けないかを選択する自由があれば、指揮監督下の労働ではないと判断される要素になります。
    2. 業務遂行上の指揮監督の有無
      • 業務を進めるにあたって発注者から具体的な指揮命令を受けていると、指揮監督下の労働であると判断される要素になります。
    3. 拘束性の有無
      • 発注者から勤務場所や勤務時間が指定され、それに従って業務を進めなければならない場合は、指揮監督下の労働であると判断される要素になります。
    4. 代替性の有無
      • 受注者が、受注した業務を第三者に委託することができたり、受注者本人に代わってほかの人が労務を提供することが認められている場合は、指揮監督下の労働ではないと判断される要素になります。
  2. 報酬の労務対償性があるかどうか
    • 報酬が、提供された労務に基づいて支払われている(例えば、働いた時間によって報酬が設定されている、等)場合、報酬の労務対償性があると判断される要素になります。 


最後に

 業務委託契約を締結する際には、上記4で挙げた点に気を付けながら運用していただくことが大切になります。
 繰り返しとなりますが、業務委託契約の運用については「形式」よりも「実態」が重視されますので、契約内容や社内の運用体制について一度確認されておくのがよろしいかと思います。
疑問や不安がございましたら、遠慮なくご相談ください。



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