上記大前提を満たしたうえで、適正な懲戒処分を行うためには以下の点に気を付ける必要があります。
● 客観的証拠を収集する
処分の正当性を裏付けるため、当該処分の根拠となる事実、処分に至るまでの経緯などを記録の形で収集しておきます。
例えば勤怠不良であれば勤怠データ、素行不良であればいつ、どこで、どのように行われたのか、ということを記録に残し、誰が見ても分かるようにしておきます。
● ステップを踏む
非違行為が認められたからといっていきなり懲戒処分を科することは、当該非違行為が非常に重大な場合(例えば暴行・傷害や重大なハラスメント等)を除くと、重きに失すると判断される場合もありますので、客観的証拠を積み上げながらステップを踏んでいくことをお勧めします。
例えば遅刻など勤怠不良の場合、初回〜数回程度の違反であれば、懲戒処分ではなく口頭での指導等にとどめておき(もちろん指導記録も残しておきます)、それでも改善が見られないので、弁明の機会を与えた上でやむを得ず懲戒処分を科す、という流れです。そうすることで、懲戒処分の正当性をより確保できます。
●適正な手続きを確保する
上記「ステップを踏む」とも関連しますが、懲戒処分を科すにあたって、就業規則に定められた手順がある場合はそれに従って進めることが必要です。例えば懲罰委員会の開催や、本人の弁明の機会を設ける、といった手順の記載が考えられます。これらを省略してしまうと、会社が定められた手順を踏まず一方的に懲戒処分を科してきた、懲戒権の濫用だ、と捉えられるリスクがあります。
なお、本人からの弁明の機会については、たとえ就業規則で定められていなかったとしても与えるのが無難です。本人の言い分を一切聞かずに下す懲戒処分には正当性や相当性の面で疑問が残りますし、実際にそのような懲戒処分を無効とする判例も出ています(テトラ・コミュニケーションズ事件、東京地判令3・9・7)
● 相当性・公平性を確保する
懲戒処分は、その原因となった行為の性質や態様に対して相当なものである必要があります。極端な例を挙げれば、数回程度の勤怠不良に対して懲戒解雇をするというのは、相当性を欠き懲戒権の濫用である、と判断される可能性が高いでしょう。
また、懲戒規程は一貫性をもって公平に適用する必要もあります。基本的に、同程度の非違行為に対しては、懲戒処分も同程度でなければならず、より重い処分を科すのであれば、その理由を明確にしておく必要があります。この意味でも、懲戒処分に当たっての記録を残しておくことは大切です。過去にどのような行為に対してどのような懲戒処分を行ったか、ということが分からなければ、一貫性を保つのが難しくなるからです。