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作成日:2025/10/10
懲戒処分とは?トラブルを防ぐ適正な運用と注意点について【社会保険労務士が解説】
 社会保険労務士法人クリアパートナーズ 社会保険労務士の寺山です。
 従業員の不適切な行為に対し、企業がとることができる「懲戒処分」。しかし、誤った運用をしてしまうと、思わぬ法的トラブルに発展する恐れがあります。とくにスタートアップや中小企業では、規程や運用体制が未整備なまま懲戒処分を行い、問題となるケースも少なくありません。
 そこで本記事では、懲戒処分を適正に運用するために必要な知識と実務上の注意点を解説します。
 
 

寺山さん写真


▼この記事を書いた人
寺山 晋太郎(Shintarou Terayama)
一橋大学社会学部卒業。大学卒業後、鉄道会社にて車掌や運転士といった現場仕事から労務管理・社員教育まで幅広い業務を担当。自身のライフステージの変化により、企業活動における「人」にフォーカスする社会保険労務士に魅力を感じ資格取得。現在は、社会保険労務士として「人」を活かし「会社」を発展させていくことを大切に、幅広い業種・職種・企業規模のお客様の支援に従事。


1. 懲戒処分とは?種類と目的

 懲戒処分とは、就業規則に違反した従業員に対して企業が科す制裁措置であり、企業の規律や秩序を維持するための制度です。代表的な処分には以下のようなものがあります。
  • 戒告・けん責:口頭または書面による注意・警告
  • 減給:法で認められた一定の範囲内で賃金を減額
  • 出勤停止:一定期間の就業を禁止
  • 降格:役職や等級の引き下げ
  • 諭旨解雇・懲戒解雇:重大な違反行為に対する雇用契約の解除
 懲戒処分は、違反行為をした従業員に反省を促すとともに、他の従業員への注意喚起や再発防止の役割も担います。
 
 

2. 懲戒処分を行うための大前提

 懲戒処分を行うためには、大前提として就業規則に懲戒の種類と事由(こういう行為をしたら、こういう懲戒処分に処する、ということ)が明確に記載されている必要があります。
 会社が非違行為を行った者に対し懲戒処分を科すというのは、国家が犯罪行為を行った者に刑罰を科すことと似ている面があります。刑法に記載されていない罪・罰では処罰できないことと同様に、会社のルールである就業規則に記載のない種類・事由では懲戒処分を科すことはできないのです。
 
 なお、仮に就業規則に懲戒についての記載がなされていたとしても、その就業規則が社内に周知されていなかった場合(例えば、就業規則の保管場所を周知していなかった、など)、就業規則の効力は生じないとされておりますので注意が必要です。
 
  

3. 適正な懲戒処分を行うには

 上記大前提を満たしたうえで、適正な懲戒処分を行うためには以下の点に気を付ける必要があります。

● 客観的証拠を収集する
 処分の正当性を裏付けるため、当該処分の根拠となる事実、処分に至るまでの経緯などを記録の形で収集しておきます。
 例えば勤怠不良であれば勤怠データ、素行不良であればいつ、どこで、どのように行われたのか、ということを記録に残し、誰が見ても分かるようにしておきます。

● ステップを踏む
 非違行為が認められたからといっていきなり懲戒処分を科することは、当該非違行為が非常に重大な場合(例えば暴行・傷害や重大なハラスメント等)を除くと、重きに失すると判断される場合もありますので、客観的証拠を積み上げながらステップを踏んでいくことをお勧めします。
 例えば遅刻など勤怠不良の場合、初回〜数回程度の違反であれば、懲戒処分ではなく口頭での指導等にとどめておき(もちろん指導記録も残しておきます)、それでも改善が見られないので、弁明の機会を与えた上でやむを得ず懲戒処分を科す、という流れです。そうすることで、懲戒処分の正当性をより確保できます。
 
●適正な手続きを確保する
 上記「ステップを踏む」とも関連しますが、懲戒処分を科すにあたって、就業規則に定められた手順がある場合はそれに従って進めることが必要です。例えば懲罰委員会の開催や、本人の弁明の機会を設ける、といった手順の記載が考えられます。これらを省略してしまうと、会社が定められた手順を踏まず一方的に懲戒処分を科してきた、懲戒権の濫用だ、と捉えられるリスクがあります。
 なお、本人からの弁明の機会については、たとえ就業規則で定められていなかったとしても与えるのが無難です。本人の言い分を一切聞かずに下す懲戒処分には正当性や相当性の面で疑問が残りますし、実際にそのような懲戒処分を無効とする判例も出ています(テトラ・コミュニケーションズ事件、東京地判令3・9・7)
 
● 相当性・公平性を確保する
 懲戒処分は、その原因となった行為の性質や態様に対して相当なものである必要があります。極端な例を挙げれば、数回程度の勤怠不良に対して懲戒解雇をするというのは、相当性を欠き懲戒権の濫用である、と判断される可能性が高いでしょう。
 また、懲戒規程は一貫性をもって公平に適用する必要もあります。基本的に、同程度の非違行為に対しては、懲戒処分も同程度でなければならず、より重い処分を科すのであれば、その理由を明確にしておく必要があります。この意味でも、懲戒処分に当たっての記録を残しておくことは大切です。過去にどのような行為に対してどのような懲戒処分を行ったか、ということが分からなければ、一貫性を保つのが難しくなるからです。


最後に

 懲戒処分は、企業の秩序を保つうえで重要な手段ですが、間違った対応をしてしまうと企業にとって大きなリスクとなります。適切な就業規則を整備し、適正な手続きの流れを確保しつつ、客観的記録に基づいて進めることで、不要なトラブルを防ぐことが可能です。
 もし、懲戒処分の実施や制度整備に不安がある場合は、遠慮なくご相談ください。



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