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作成日:2025/10/31
割増賃金の計算基礎となる賃金とは?残業代の計算で注意すべきポイント【社会保険労務士が解説】
 社会保険労務士法人クリアパートナーズ 社会保険労務士の寺山です。
 法定労働時間を超えて労働させた場合や休日に労働させた場合(いわゆる「残業」)、労基法37条1項の規定により割増賃金を支払わなけれなりません。一方で同条5項では、割増賃金の計算基礎となる賃金には「家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない」とも定められております。そこで本稿では、本条を関係法令含め詳しく見ていき、割増賃金の計算についてご説明いたします。
 
 

寺山さん写真


▼この記事を書いた人
寺山 晋太郎(Shintarou Terayama)
一橋大学社会学部卒業。大学卒業後、鉄道会社にて車掌や運転士といった現場仕事から労務管理・社員教育まで幅広い業務を担当。自身のライフステージの変化により、企業活動における「人」にフォーカスする社会保険労務士に魅力を感じ資格取得。現在は、社会保険労務士として「人」を活かし「会社」を発展させていくことを大切に、幅広い業種・職種・企業規模のお客様の支援に従事。


1.割増賃金の趣旨と現状

 そもそも、何故残業に対しては割増賃金を支払わなければならないのでしょうか。その目的は以下2つとされています(平6.1.4基発1号など)。
  • 通常の勤務時間とは違う特別の労働(=残業)に対する労働者への補償を行うため
  • 使用者に対し経済的負担を課することで、残業の抑制を図るため
そのため、現状(2025年10月現在)では以下の割増率が法定されています(労基法37条など)。

@        法定時間外労働(1カ月60時間以内の部分)

25%以上

A        法定時間外労働(1カ月60時間を超えた部分)

50%以上

B        法定休日労働

35%以上

C        深夜労働(22時〜5時)

25%以上

 
※法定休日・・・労基法35条で定められた「1週間に1日、もしくは4週間に4日」の休日のことを指します。それ以外の休日、いわゆる「所定休日」や「法定外休日」と呼ばれる日に労働した場合は、@やAと同様に、法定労働時間をいくら超えたかによって計算します

 以上の割増率は合算されることもあります。例えば、@とCが同時に行われた場合(法定時間外労働が深夜に及んだ場合)の割増率は最低50%となりますし、BとCが同時に行われた場合(法定休日労働が深夜時間帯に及んだ場合)の割増率は最低60%となります。
 ちなみに、法定休日には法定労働時間という概念がありませんので、@やAとBが同時に行われるという概念もありません。すなわち法定休日労働が仮に8時間を超えて行われたとしても、割増率は最低35%で良いことになります(ただ、法定休日労働が深夜時間帯に及んだ場合は前述の通り合算されます)。

 

2.割増賃金の計算方法

 割増賃金の計算方法は以下の通りです。

割増賃金=残業をした従業員の1時間当たりの賃金×割増率×残業時間


 上記数式内の「1時間当たりの賃金」については、以下の方法で計算します(月給の場合)。

1時間当たりの賃金=(基本給+諸手当)÷1カ月の平均所定労働時間


 ここで問題となるのが、下線を引いた(基本給+諸手当)の部分です。基本給の部分はともかく、諸手当の部分について、どの手当は計算に入れ、どの手当は入れなくてもよいのかという明確な処理基準がなければ、正確な割増賃金が計算できない恐れがあります。
 そのためこの処理基準については法令等で定められており(労基法37条5項など)、具体的には以下に含まれない諸手当については、割増賃金の計算に含めなくてはなりません。

@     家族手当

A     通勤手当

B     別居手当

C     子女教育手当

D     住宅手当

E     臨時に支払われた賃金

F     1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金


 @〜Dについては労働と直接的関係がうすく、個人的事情に基づいて支給されるものであるし、E〜Fについては計算技術上の困難があるため、というのが除外される理由です。
 ただし、@〜Dについては、該当する手当があるからといって機械的に計算から外してしまうのも危険です。というのも上記基準は、その手当がどのような形で支払われるのかという内実も踏まえているからです。例えば名称が「住宅手当」であっても、持家居住者には一律で〇〇円、借家居住者には△△円・・という形式での支給である場合は、個人的事情に基づいたものとは言えないため、割増賃金の計算に含まなくてはなりません。また家族手当についても、子供がいる場合は人数関係なく一律に□□円・・というときは、同様に割増賃金の計算に含める必要があります。
 ポイントとしては、個々の従業員の実情に応じて支給しているかという点になります。例えば住宅手当の場合であれば個々の住宅ローンや家賃額の何割かを支給する、家族手当であれば扶養家族数に応じて支給する、といった形であれば、仮に名称が住宅手当・家族手当でなくても計算から除外できます。
 
  

3. 端数処理の方法

 割増賃金の計算においては、どうしても端数が生じてしまいますが、端数処理の方法いかんでは労働者に不利になってしまう場合もあることから、その方法についても法令によって定められています(昭63.3.14 基発150号)。具体的には

@        1カ月における時間外労働、休日労働および深夜業のそれぞれの時間数の合計に1時間未満の端数がある場合、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること

A        1時間当たりの賃金額および割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること

B        1カ月における時間外労働、休日労働、深夜業のそれぞれの割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合、Aと同様に処理すること

 
 上記3つの方法であれば、常に労働者に不利になるわけではなく、事務簡便を目的としたものであることから認められます。逆に言えば、これら以外の方法で端数処理をしている場合、法に違反する恐れがありますので注意が必要です。
 
 

最後に

 割増賃金の計算に誤りがあり、未払い賃金が発生してしまうと、労基法37条や「賃金全額払いの原則」を定める同24条違反となり、是正勧告や罰則等の対象となり得ます。
 特に2の項でご説明した「どの手当を計算単価に含めるか」については、手当を新設した際に計算に含めることを失念し、そのまま計算し続けてしまっていた・・・というケースがよく見られますので、一度点検されておくことをお勧めいたします。



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