作成日:2025/11/14
試用期間中の解雇はできる?正しい運用とリスク管理について【社会保険労務士が解説】
社会保険労務士法人クリアパートナーズ 社会保険労務士の寺山です。
試用期間中の従業員に対して、業務適性や勤務態度を理由に解雇(本採用拒否)を検討する企業は少なくありません。しかし、試用期間であっても解雇には正当な理由と手続きが必要であり、誤った運用は不当解雇とされるリスクがあります。
本記事では、試用期間の法的位置づけから本採用拒否が認められる条件、リスクを回避するための対応と記録の取り方、そして就業規則や雇用契約書に盛り込むべきポイントについて、社会保険労務士の視点から詳しく解説します。
▼この記事を書いた人 寺山 晋太郎(Shintarou Terayama) 一橋大学社会学部卒業。大学卒業後、鉄道会社にて車掌や運転士といった現場仕事から労務管理・社員教育まで幅広い業務を担当。自身のライフステージの変化により、企業活動における「人」にフォーカスする社会保険労務士に魅力を感じ資格取得。現在は、社会保険労務士として「人」を活かし「会社」を発展させていくことを大切に、幅広い業種・職種・企業規模のお客様の支援に従事。
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1. 試用期間の法的性質
「試用期間」という言葉には、法律上の明確な定義はありませんが、過去の裁判例を見ると、その多くが「解約権が留保された労働契約が成立している」とする見解を採っています。
ただ、解約権が留保されているからといって「自由に解約=解雇できる」というわけではありません。裁判例(三菱樹脂事件最高裁判決)では「試用期間中の解雇は、通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、通常の解雇よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきもの」としながらも、「解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される」としております。
つまり、実質的には通常の労働契約における解雇とさほど変わらない厳密な要件が必要である、ということになります。
2.試用期間中の解雇が認められる条件と実務上のポイント
試用期間中の解雇が認められるためには、少なくとも十分な教育指導を行ったにもかかわらず、労働者の能力・資質不足が顕著であり、改善の見込みが認められないという状況が大前提となります。
例えば、指導教育を行えば容易に改善が見込まれるような事項(誤字・脱字、上司に挨拶をしない、等)について、必要な指導等を行わずに本採用拒否とするようなことは認められないでしょう。
一方で、指導教育を行っても平易な業務で頻繁にミスを繰り返し、従来の新規学卒社員と比べても大幅に事務処理能力が劣っていた事例(三井倉庫事件・東京地判平13・7・2労経速1784号3頁)、高い処遇で採用された中途採用職員について、英語能力が採用時に予想した程度に達しておらず、仕事も積極的に行わず上司の命令にも従わなかった事案(欧州共同体委員会事件・東京高判昭58・12・14労民集34巻5=6号922頁)などにおいては本採用拒否が有効であると判断されています。
ゆえに、試用期間運用の実務においては以下の点に留意すべきです。
- 雇用契約書・就業規則への記載:試用期間運用における大前提として、雇用契約書や就業規則に試用期間についての記載(期間の長さ、試用期間中の待遇、延長の有無、不適格と判断した場合の取り扱いなど)が必要です。なお、試用期間は一時的に労働者を不安定な立場に置くこととなるため、長すぎる試用期間は公序良俗違反と判断される可能性があります。長くても6カ月程度でしょう。また、延長するには規程等の記載が必要です。
- 業務日報・指導記録の保存:試用期間中における対象労働者の勤務状況を日報等で記録させつつ、指導を行った場合はその経緯や指導内容を文書で保存しておくようにしましょう。十分な指導教育を行ったという証拠を残すためです。
- 改善機会の提供:1・2回のミスで即本採用拒否を判断するというのは拙速の謗りを免れないでしょう。最低でも数回は指導教育を行い、改善の機会を与えることが必要です。このままでは本採用は難しいという状況がはっきりしているのであれば、その旨も併せて伝え、改善を促すべきです。
- 試用期間の評価基準を明確にする:業務遂行能力や協調性など、何らかの客観的基準を設定しておき、指導や教育等を行う必要が生じた際にはそれに則って行うようにしましょう。
3. 本採用拒否を行う場合
本採用拒否を行わざるを得ない場合でも、まずは退職勧奨を行うようにします。解雇と同様、本採用拒否にもどうしてもリスクがあるためです。本人に本採用できない理由を明確に説明し、自主退職を促しましょう。それでも話がまとまらない場合、本採用拒否を行うこととなります。
この場合でも、一種の解雇であることに変わりはありませんので、原則として解雇予告もしくは解雇予告手当の支払いが必要です(雇用開始後14日以内に解雇する場合を除く)。解雇予告は文書で行い、本採用拒否に至った理由を可能な限り具体的に記載するようにしましょう。
最後に
試用期間の本採用拒否であっても解雇に準じた取り扱いが必要であり、企業には解雇の合理性確保や手続きの適正が求められます。
対応に不安がある場合は、ぜひ社労士にご相談ください。