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労務コラム
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作成日:2026/05/22
「お客様は神様」の終焉:2026年施行、カスハラ対策義務化について【社会保険労務士が解説】
現場を疲弊させる「理不尽」への終止符

 社会保険労務士法人クリアパートナーズ 社会保険労務士の寺山です。

 かつて「お客様は神様」という言葉は、日本のおもてなしの美徳として語られてきました。しかし、現代の職場において、その言葉はいつの間にか働く人々を理不尽な要求で追い詰め、尊厳を奪う「免罪符」へと変質してしまったのではないでしょうか。
 現場で繰り返されるカスタマーハラスメント(カスハラ)は、もはや従業員の我慢で解決できるようなものではありません。放置すれば大切な人的資本の喪失を招きかねない、重大な経営リスクとなり得るものです。
 令和8年(2026年)10月から、企業にはカスハラへの対策が「法的義務」として課されます(労働施策総合推進法の改正)。すなわち、従業員がカスハラに遭遇した場合、企業は従業員を保護するとともに、毅然とした対応を取らなければなりません。
 本記事では、義務化されるカスハラ対策の内容を、厚生労働省の「カスハラ対策の指針」をもとに詳しくご説明します。
 

寺山さん写真


▼この記事を書いた人
社会保険労務士 寺山 晋太郎(Shintarou Terayama)
一橋大学社会学部卒業。大学卒業後、鉄道会社にて車掌や運転士といった現場仕事から労務管理・社員教育まで幅広い業務を担当。自身のライフステージの変化により、企業活動における「人」にフォーカスする社会保険労務士に魅力を感じ資格取得。現在は、社会保険労務士として「人」を活かし「会社」を発展させていくことを大切に、幅広い業種・職種・企業規模のお客様の支援に従事。
 


1.どこからが「カスハラ」?社会通念という明確な境界線

 まず「正当なクレーム」と「カスハラ」とは、どのような点で区別されるのでしょうか。
 今回の法改正に伴う指針では、以下の3つの要素を全て満たすものをカスハラと定義しています。
  1. 顧客等からの言動であること
  2. 業務の性質等に照らし、社会通念上許容される範囲を超えたものであること
  3. 労働者の就業環境が害されるものであること
 特に2の「社会通念上許容される範囲を超えたもの」に該当するかどうかが重要になります。指針では、当該言動の目的、経緯や状況、業種・業態、頻度・継続性、労働者の属性、行為者との関係性といった要素を総合的に考慮すべきとしつつ、以下2点を「社会通念上許容される範囲を超えたもの」とし、それぞれに具体例を挙げています。
  • 当該顧客等の言動の内容が契約内容からして相当性を欠くもの
    • そもそも要求に理由がない、又は商品・サービスと全く関係のない要求
    • 契約等により想定しているサービスを著しく超える要求
    • 対応が著しく困難、もしくは不可能な要求
  • 手段や態様が相当でないもの
    • 身体的な攻撃(暴行・傷害など)
    • 精神的な攻撃(暴言・脅迫・中傷・土下座の強要など)
    • 威圧的な言動
    • 継続的・執拗な言動
    • 拘束的な言動(不退去・居座り・監禁など)
 

2.企業に課される「カスハラ防止のために講ずべき措置」

 令和8年10月より、企業は以下の措置を必ず講じなければなりません。
  1. 方針の明確化と周知:カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護するという方針を明確に示すとともに、カスハラの内容及びあらかじめ定めた対処の内容を従業員に周知しなければなりません。
  2. 対応体制の整備:相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知するとともに、窓口担当者が適切に対応できるようにしておきます。また、相談者のプライバシーは保護され、相談したことにより不利益な取り扱いを受けることがない旨も併せて周知(就業規則等へ記載)します。
  3. 事後の迅速かつ適切な対応:事実関係を迅速かつ正確に把握するとともに、被害を受けた従業員のケアや再発防止策を講ずる必要があります。
  4. カスハラ抑止のための措置:特に悪質なカスハラについては、警察への通報も含めた対処の方針をあらかじめ定め、当該対処を行うことができる体制を整備しておきましょう。
 カスハラに対し、会社として「毅然と対応する」と宣言することは、従業員のエンゲージメントを高め、安心して生き生きと働いてもらうことにもつながります。
 

3.努力義務(責務)

 今回の法改正においては、社会全体としてカスハラを防止していくための努力義務も設けられました。具体的には、以下内容が企業・従業員の責務とされます。
  • 他社への配慮:自社の従業員(事業主含む)が、他社の従業員にカスハラを行わないように研修その他の必要な配慮を行うこと
  • 事実確認への協力:取引先等の他社からカスハラの事実確認を求められた際、契約解除などを盾に拒まず協力すること
  • 行為者への処分:自社の従業員が他社でカスハラ加害者となったことが明らかになった場合、就業規則等に基づき必要な懲戒等を行うこと
 自社の従業員をカスハラから守るだけでなく、カスハラ加害者にならないように律することもまた重要です。
 
 

4.留意すべきその他のポイント

  • 派遣労働者の保護:派遣労働者を受け入れている企業については、派遣労働者も自社の従業員と同様の措置を講じる義務があります。
  • 障害者への配慮:障害を理由とした合理的配慮の提供や社会的障壁の除去を求める言動は、原則としてカスハラには当たりません。建設的な対応が求められます 。
  • 対応力の向上:従業員自身が商品・サービスを深く理解し、接客スキルを高めることも、カスハラ被害を未然に防ぐ重要な取組とされています。
 

まとめ

 2026年10月施行の改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策が義務化されます。企業はカスハラに対する方針の明確化や相談体制の整備、事後ケア、さらには自社従業員を加害者にしないための取り組みを行う必要があります。「お客様は神様」の時代は終わり、従業員を守る毅然とした対応が経営のリスク管理と成長に不可欠となります。
 弊所では、カスハラ対応マニュアルの作成支援や、就業規則への記載、従業員向け研修の実施をサポートしております。対策についてご不安な方は、ぜひ一度ご相談ください。
 
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