作成日:2026/02/27
企画業務型裁量労働制とは?労使委員会の設置から運用まで社会保険労務士が徹底解説
社会保険労務士法人クリアパートナーズ 社会保険労務士の寺山です。
前回記事に引き続き、本記事では裁量労働制のうち「企画業務型裁量労働制」について現行制度の仕組みと実務上の留意点を解説します。
▼この記事を書いた人 社会保険労務士 寺山 晋太郎(Shintarou Terayama) 一橋大学社会学部卒業。大学卒業後、鉄道会社にて車掌や運転士といった現場仕事から労務管理・社員教育まで幅広い業務を担当。自身のライフステージの変化により、企業活動における「人」にフォーカスする社会保険労務士に魅力を感じ資格取得。現在は、社会保険労務士として「人」を活かし「会社」を発展させていくことを大切に、幅広い業種・職種・企業規模のお客様の支援に従事。
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1. 制度の位置づけと基本的な仕組み
企画業務型裁量労働制は、企業や事業場の「事業の運営に関する企画・立案・調査・分析」の業務に従事する労働者について、実際の労働時間にかかわらず、労使委員会の決議で定めた「みなし労働時間」働いたものとみなす制度です。
企画業務型裁量労働制については、専門業務型裁量労働制以上に、以下のような厳格な前提と制約があります。
- 対象となる業務・事業場が法律上、明確に限定されていること
- 労使委員会の設置と継続的な開催が必要なこと
上記を含め、以下項目にて要件を詳しく見ていきます。
2. 企画業務であれば「何でもよい」わけではない
企画業務型の対象となるのは、次のような要件を満たす「事業の運営に関する企画・立案・調査・分析」の業務に限られます。
対象業務の4つの要件は以下の通りです。
- 事業の運営に関する事項についての業務であること
- → 本社・支社レベルの経営企画、人事制度企画、全社営業企画、生産計画など、企業全体または事業場の運営に大きな影響を与える業務が典型です。
- 業務の中身が「企画・立案・調査・分析」であり、これらが相互に関連して行われること
- → 名称が「企画部」「企画課」であっても、実態が庶務・定型事務中心であれば対象外です。
- 業務の性質上、その遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があること
- → 使用者の主観ではなく、業務の性質から客観的に裁量が求められる仕事であることが前提です。
- 業務遂行の手段や時間配分について、使用者が具体的な指示をしないこと
- → 「いつ、どのように企画・調査を進めるか」「始業・終業をどうするか」等について、広範な裁量が認められている必要があります。始業または終業のどちらか一方でも会社が指示している場合は、企画業務型の対象業務とはされません。
このため、例えば次のような業務は企画業務型の対象にはなりません。
- 会議準備・議事録作成・書類整理などの庶務的業務
- 給与計算・社会保険手続・採用事務・研修運営などの定型業務
- 個別の営業活動や、現場レベルの工程管理のみを行う業務 など
また、「企画業務」と、それ以外の一般事務・庶務等を、通常業務として混在させている場合には、全体として企画業務型裁量労働制を適用することはできません(臨時・例外的な兼務のみ、対象業務部分に限りみなし労働時間制の扱いが可能と考えるのが一般的な整理です)。
さらに、そもそも企画業務型自体を導入できる事業場は、「事業の運営に関する意思決定を行う事業場」(本社、本店や、独自に事業計画を決めている支社等)に限られ、個々の製造ラインや個別営業拠点などには導入できない点にも注意が必要です。
3. 制度導入の手続きと、「同意」要件
企画業務型裁量労働制も、企業側の一方的な決定では導入できません。労使委員会を設置・運用する必要があるので、
専門業務型以上に手続き面のハードルが高い制度です。(1) 導入のステップ
- 事業場ごとに「労使委員会」を設置
- 労働者委員が半数超で構成され、かつ労働者委員は過半数労組または過半数代表者から指名された者であることが必要です。使用者の意向に基づいた選出であってはなりません。また言うまでもありませんが、労使委員会の委員であることを理由に不利益取り扱いをすることも許されません。
- 労使委員会で、委員の5分の4以上の多数により以下を決議
- 制度の対象となる業務
- 対象労働者の範囲
- 対象労働者は「常態として対象業務に従事しており、かつ、対象業務を適切に遂行するための必要となる具体的な知識経験を有する」必要があります。よって、例えば新卒採用者を即対象労働者とすることはこの要件を満たしているとはいえません。
- 1日のみなし労働時間
- 健康・福祉確保措置の具体的な内容
- 苦情処理措置の内容
- 本人同意の取得と不同意・同意撤回時の不利益取扱い禁止
- 同意撤回の手続き
- 対象労働者に適用される賃金・評価制度変更時における労使委員会への説明
- 決議の有効期間(3年以内が望ましい)
- 記録の作成・保存方法 など
- 労使委員会の決議内容を、所轄労基署に届出
- 就業規則・個別労働契約への反映
- 対象となる労働者一人ひとりから、決議有効期間ごとに「本人の同意」を取得
- 同意しないことや、同意を撤回したことを理由とする不利益取扱いは禁止です。
- 同意取得後、制度の運用開始
- なお、労使委員会は6カ月以内ごとに最低1回以上は開催し、制度の実施状況を継続してモニタリングする必要があります。
- また、決議の有効期間の始期から起算して初回は6カ月に1回、その後は1年以内ごとに1回、所轄の労基署に実施状況の報告を行うことが必要です。
(2) 本人同意と不利益取扱い禁止
企画業務型の適用も、あくまで本人の同意が前提であり、労働者はいつでも同意を撤回できます。
- 同意しなかった/撤回した労働者に対し、解雇・降格・賃金減額等の不利益取扱いは禁止
- もっとも、就業規則や賃金制度上、「企画業務型適用者には特定の等級・手当を支給する」といった合理的な処遇差をあらかじめ定めている場合には、その範囲での差は直ちに違法な不利益とは評価されません。
つまり、「本社企画部は全員自動的に企画業務型裁量労働制にする」といった運用は認められませんし、本人の意に反して適用し続けることもできません。
4. 「労働時間を管理しない制度」ではない
裁量労働制全般に言えることですが、企画業務型裁量労働制も「業務遂行の手段・時間配分を本人の裁量に委ねる制度」であって、「労働時間を把握しなくてよい制度」ではありません。
対象労働者についても、実際に働いた時間を以下のような客観的な方法で把握することが原則です。
- タイムカード
- 入退室記録(ICカード等)
- PCログ など
上記方法によって把握した労働時間を前提に、長時間労働者への健康・福祉確保措置を実施することが義務づけられています。
また、1週間当たり40時間を超える時間が月80時間を超えた労働者から申出があった場合には、医師による面接指導を行う義務があり、その情報を産業医に提供する必要があります。
「何時間働いているかを見ていない」「自己申告も取っていない」といった放任的な運用は、制度の趣旨に反するだけでなく、安全配慮義務上も問題となり得ます。
5. 割増賃金は「ゼロ」でよいのか
企画業務型裁量労働制を適用しても、以下の割増賃金は引き続き発生しますし、時間外・休日労働が発生する場合は別途36協定の締結が必要な点も、専門業務型裁量労働制と同様です。
- 1日のみなし労働時間が8時間・週40時間を超える部分
- → その超えた時間は時間外労働として扱われ、25%以上(60時間超は50%以上)の割増賃金が必要
- 法定休日労働(週1日または4週4日の休日に働いた時間)
- 深夜労働(22時〜翌5時)
6. 時間配分の裁量と、欠勤・遅刻早退との関係
「1日の労働時間数や始業・終業時刻の決定を、原則として本人の裁量に委ねる」という制度趣旨は、専門業務型裁量労働制と同様です。
そのため、実際に働いた時間がみなし労働時間以下だったからといって、不足時間分を控除することはできません。
一方で、「その日にまったく労務提供をしていない」場合は、通常の労働者と同様、ノーワーク・ノーペイの原則に基づき欠勤控除が可能です。欠勤控除の具体的な計算方法は法定されていないため、就業規則や賃金規程で明確に定めておくことが望ましいといえます。
7. 健康・福祉確保措置と長時間労働リスク
企画業務型裁量労働制についても、対象業務の性質上、長時間労働になりやすい側面があります。そのため、労使委員会の決議に具体的な「健康・福祉確保措置」を盛り込み、実際に実施することが求められます。
代表的な措置例として、次のようなものがあります。
- 終業から次の始業までに一定時間以上の休息(勤務間インターバル)の確保
- 深夜労働回数の上限設定
- 把握した労働時間が一定時間を超えた場合には、企画業務型の適用を解除するルール
- 年次有給休暇の連続取得の促進
- 長時間労働者への医師面接指導、代償休日・特別休暇の付与、追加の健康診断の実施
- 相談窓口の設置、配置転換、産業医等による助言・保健指導 など
制度を導入する以上、「裁量だから自己責任」とするのではなく、「裁量を前提としつつ、会社としてどのような健康保護の枠組みを用意するか」が問われます。
なお、特定の対象労働者について、健康リスクが高いと判断されれば、その者に対してのみ企画業務型の適用をやめる、といった運用も決議事項としてあらかじめ位置づけておくことが望ましいともされています。
8. 企業・労働者双方にWin-Winとするために
企画業務型裁量労働制も、適切に設計・運用すれば、次のようなメリットが期待できます。
- 対象者が自ら業務の進め方・時間配分を設計することで、創造性や専門性を発揮しやすくなる
- 結果・成果に基づく評価と組み合わせれば、企画系ホワイトカラーの処遇に適した枠組みとなり得る
- 企業側としても、人件費の見通しを立てやすく、「時間」ではなく「成果」を軸にしたマネジメントに移行しやすい
一方で、次のような点を誤ると、「定額働かせ放題」と揶揄される状況を招きやすくなります。
- 対象業務の範囲が曖昧で、実態として一般事務・一般営業にまで適用を広げてしまう
- 上司が日々、具体的な業務手順や時間配分を細かく指示し、名ばかりの「裁量労働」となっている
- 実労働時間の把握や健康確保措置が形式的で、長時間労働を事実上放置している
- みなし労働時間と実際の業務量・賃金水準のバランスが崩れ、長時間労働に見合う処遇が行われていない
まとめ
企画業務型裁量労働制は、専門業務型以上に、対象業務・対象事業場の限定や導入手続の重さが特徴的な制度です。
対象となる業務の厳格な線引きや、労使委員会による決議と定期的なモニタリング、労基署への定例的な報告など、多くの「歯止め」を前提としています。
これらの要件を正しく理解し、実態に即した運用ができれば、企業にとっても対象従業員にとっても、時間に縛られ過ぎない柔軟な働き方と、成果重視の処遇を両立させる有力な選択肢となり得ます。
企画業務型裁量労働制の導入や運用について、ご不明点等ございましたらお気軽にご相談ください。
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