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労務コラム
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作成日:2026/05/29
熱中症に対する対策義務について【社会保険労務士が解説】
 社会保険労務士法人クリアパートナーズ 社会保険労務士の寺山です。
 日本の夏は、もはや「暑い」という言葉では片づけられない状態になっています。気温35℃以上となる猛暑日が真夏のスタンダードとなりつつあり、体温すら超えるような危険な暑さとなることも珍しくありません。このような暑熱下での活動は身体に大きな負担となり、場合によっては生命に危険を及ぼす「熱中症」を引き起こしてしまいます。事実、昨年(令和7年)度における「職場における熱中症による死傷者数」は1,803人(前年比約43%増)となり、統計開始以来最大となっております。
 
厚生労働省『令和7年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)』より引用

 こういった中、令和7年(2025年)6月に改正労働安全衛生規則が施行され、それまで現場の裁量に委ねられていた熱中症対策が、法的な義務として位置付けられました。
 気象予測によると、今年の夏も全国的に高温となると見込まれておりますし、5月にもかかわらず猛暑日を記録した地区も出ております。
 今回の記事では、法的義務となった熱中症対策の内容を中心に、暑熱順化や対応のポイントなどについて解説します。
 

寺山さん写真


▼この記事を書いた人
社会保険労務士 寺山 晋太郎(Shintarou Terayama)
一橋大学社会学部卒業。大学卒業後、鉄道会社にて車掌や運転士といった現場仕事から労務管理・社員教育まで幅広い業務を担当。自身のライフステージの変化により、企業活動における「人」にフォーカスする社会保険労務士に魅力を感じ資格取得。現在は、社会保険労務士として「人」を活かし「会社」を発展させていくことを大切に、幅広い業種・職種・企業規模のお客様の支援に従事。
 

1.早期発見の重要性と熱中症の初期症状

 まずは熱中症による労働災害の現状を認識しておくことが極めて重要です。統計によれば、熱中症が死亡災害に至る割合は、他の労働災害と比較して、実に5〜6倍という突出した数値を示しています。
 その原因として考えられているのが、「初期症状の放置・対応の遅れ」です。分析結果が示す熱中症死亡災害100件のうち、78件に「発見の遅れ(重篤な状態で発見)」、41件に「異常時の対応不備(医療機関への搬送遅れ等)」でした。
 そのため、熱中症の初期症状を見逃さず、かつ万一の場合の対応フローを整備しておくことが、熱中症による死亡災害を防ぐカギとなります。
 
 なお、熱中症の初期症状としては以下のものが挙げられます。
  • めまい・立ちくらみ
  • 頭痛・吐き気・嘔吐
  • 筋肉痛・こむら返り
  • 全身倦怠感(だるさ)

2.熱中症防止の法的義務

 2025年6月に改正された規則の基本的な考え方は
  1. 見つける
  2. 判断する
  3. 対処する
 です。
 まず、熱中症対策義務化の対象となるのは
 「WBGT28度以上または気温31度以上の環境下で連続1時間以上または1日4時間を超えて実施が見込まれる作業」
です。
 WBGTとは「暑さ指数」のことで、気温や湿度、日射などを総合的に評価して熱中症の危険度を評価する指数となります。この指数が28を超えると熱中症患者が急激に増加するとされており、今回の改正でも28が基準となっています。なお上記基準は固定的なものではなく、例えば同じWBGT数値下でも服装によって危険性が大きく変わりますので、透湿性が悪い服を着用しての作業などはより注意が必要となります※。
 上記基準に該当する作業を行う場合、事業者は1・2・3の考え方に基づき、以下の措置を行っておくことが義務となります。
  • 報告体制の整備と周知: 熱中症になった作業者、もしくは熱中症の恐れがある作業者をいち早く発見するための体制整備が必要となります。具体的には、熱中症の初期症状を作業者間で共有しておく、作業場の定期巡回を行う、作業者同士でバディを組ませ互いに体調を観察し合う、ウェアラブルデバイスを活用する等により、熱中症の兆しを早期に特定することができるようにします。
  • 対応フローの整備と周知:上記により熱中症の兆しを発見した場合、それに対してどう対応するかをあらかじめ整備し、関係者に周知を図っておくことが必要となります。例えば誰に報告すればよいのか、報告を受けた者は何をどこに連絡すれば良いのか、どのような場合に救急隊を要請するのか等を前もって決めておき、作業場内に周知することで、迅速な対応と正確な判断ができるようにしておきます。
 上記義務は、前項でご説明した「熱中症の初期症状の放置・対応の遅れ」を防止するにあたって大切なものとなります。
 

3.暑熱順化と普段の体調管理

 熱中症対策の観点からは、暑熱順化も重要です。
 人間の身体には、暑さに適応する「暑熱順化」という機能があり、生活の中で暑さに慣れさせることで暑さに強くなります。
 暑熱順化のためには、適切な発汗を促す活動(運動や入浴など)を数日〜2週間程度行うことが必要です。暑さが本格化する前に作業時間を少し増やすなど、事業場として暑熱順化を促すことも考えられます。
 ただ、暑熱順化は永続的なものではなく、数日暑さから遠ざかると効果が無くなってしまうといわれておりますので、梅雨の晴れ間や梅雨明け時、連休明け時などは特に注意が必要です。
 
 なお、熱中症の発症者については、当日もしくは前日に、睡眠不足や食欲低下、下痢や風邪の症状、だるさなど何らかの体調不良があり、それと暑熱下での作業とが相まって急激に重症化する例が多いとされています。
 そのため、作業者の普段からの体調管理が重要になるとともに、事業者においても、例えば作業開始前に各作業者の体調をチェックするなどの方策が有効です。


まとめ


 熱中症は死亡災害リスクが非常に高い労働災害です。2025年6月の法改正により、一定基準以上の暑熱環境下での作業では、初期症状の早期発見のための報告・対応フローの整備と周知が事業者に義務化されました。それとともに、熱中症予防には事前の暑熱順化や、作業開始前の徹底した体調管理も不可欠です。
 
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