作成日:2026/07/17
妊娠・出産・育休等を理由とした「不利益取扱い」が法違反となるケースについて【社労士が解説】
社会保険労務士法人クリアパートナーズ 社会保険労務士の寺山です。
厚生労働省『令和6年版 働く女性の実情』調査によると、女性の労働力人口、ならびに労働力人口総数に占める女性割合は一貫して増加傾向にあります。一方で男性の育児休業取得率は令和6年で40.5%となっており(厚生労働省『令和6年度 雇用均等基本調査』)、仕事と育児との両立が女性だけに迫られていた時代はだんだん変わりつつあります。
こういった中、「妊娠や出産、育児休業等」を契機とする「解雇その他不利益な取扱い」は、男女雇用機会均等法第9条第3項および育児・介護休業法第10条によって禁止されております。これらの事由を理由に、従業員にとって不利益となる措置を行ってしまうと、従業員本人のキャリア形成を不当に阻害するだけでなく、組織全体の士気低下、ひいては法違反により企業の社会的信頼失墜や法的紛争を招きかねません。
本記事では、「妊娠や出産、育児休業等」の対象となる事由の詳細をご説明するとともに、何が「解雇その他不利益取扱い」に該当し、どのような基準でその適法性が判断されるのかを解説します。
▼この記事を書いた人 社会保険労務士 寺山 晋太郎(Shintarou Terayama) 一橋大学社会学部卒業。大学卒業後、鉄道会社にて車掌や運転士といった現場仕事から労務管理・社員教育まで幅広い業務を担当。自身のライフステージの変化により、企業活動における「人」にフォーカスする社会保険労務士に魅力を感じ資格取得。現在は、社会保険労務士として「人」を活かし「会社」を発展させていくことを大切に、幅広い業種・職種・企業規模のお客様の支援に従事。
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1.対象となる事由
まず、対象となる「妊娠や出産、育児休業等」については、厚生労働省令等により定められています。以下に例を挙げます。
@ 妊娠、出産したこと
A 産前産後休業を請求または取得したこと
B 妊娠中及び出産後の母性健康管理措置(健康管理に関する措置)を求め、または受けたこと
C 軽易な業務への転換を請求し、又は軽易な業務に転換したこと
D 妊娠又は出産に起因する症状(つわり等)により労務の提供ができないこと若しくはできなかったこと又は労働能率が低下したこと
E 育児時間の請求をし、又は育児時間を取得したこと
F 育児・介護休業、子の看護等休暇・介護休暇の申出や取得をしたこと
G 育児・介護のための短時間勤務や残業免除・深夜業の免除、始業時刻変更の申出や利用をしたこと
これらを契機とした「解雇その他不利益取扱い」が禁止対象となります。
2.「解雇その他不利益取扱い」の定義
「解雇その他不利益取扱い」には以下のようなものが一例として挙げられます。
@契約形態・雇用維持に関する措置
- 解雇・雇止め: 解雇や、有期雇用労働者の雇止め
- 契約更新回数上限の引き下げ: あらかじめ明示されていた有期雇用契約の更新上限回数を引き下げること
- 退職・非正規化の強要: 退職や、正社員からパートタイム労働者への転換などを強要すること
A配置・処遇・評価に関する措置
- 降格・不利益な配置変更: 役職の解任、不利益な配置変更、不利益な自宅待機の命令
- 減給・賞与の不利益算定: 給与の引き下げや、休業期間等を超えて賞与・退職金の減額※を行うこと
- 人事考課における不利益評価: 昇進・昇格の審査において、妊娠・育児等を理由に不当に低い評価を付すこと
※休業等により実際に働かなかった期間・時間分を算定対象から控除すること自体は、不利益取扱いには当たりません。
B就業環境・派遣労働に関する措置
- 就業環境を害する行為: もっぱら雑務を行わせたり、仕事を与えなかったりすること
- 派遣先による拒絶: 派遣労働者について、派遣先が当該事由を理由に役務の提供を拒むこと
- 意に反する制度の強制適用: 労働者が希望する期間を超えて、その意に反して「残業免除」や「時短勤務」等を強制的に適用すること。
上記のような措置が「妊娠や出産、育児休業等」を契機として行われた場合は法違反となる可能性が非常に高いです。
3.「契機として」の意味:法違反の推定
ここで言う「契機として」の定義はかなり厳格なものとなっており、妊娠・出産・育児休業等の事由の終了から1年以内(定期的な人事異動等については、仮に1年を超えていたとしても、事由の終了後最初のタイミングに行われるものまでが対象となります)に上記の不利益取扱いがなされた場合は、原則として「契機として」いると判断され、事業主側が例外事由を証明できない限り、法違反と推定されます。
例外事由としては以下2つがあります。
| 条件区分 |
要件 |
例外@ 特段の事情の存在 |
「業務上の必要性」から不利益取り扱いをせざるを得ず、 かつ 「業務上の必要性」が、不利益取扱いにより受ける影響を上回る場合 |
例外A 労働者の同意と 合理的客観的理由の存在 |
労働者が当該取扱いに同意しており、 有利な影響が不利な影響を上回っていて、 かつ 一般的な労働者でも同意し得る合理的客観的理由が存在すること |
例外@として考えられるケースとしては、会社業績の悪化や本人の能力不足などが考えられますが、それだけで直ちに適法とされるわけではなく、少なくとも解雇回避努力や継続的な指導・改善機会の付与など、会社として最大限の努力を行なった上でそれでもなお、という形が必要となります。
例外Aについては、労働者の同意があり、有利な影響が不利な影響を上回っていることに加えて、一般的な労働者であっても同意すると考えられる合理的客観的な理由が必要となります。
妊娠・出産・育児休業等から1年以内に不利益取扱いが行われた場合は、上記例外@・Aに該当することを証明できない限り、法違反となってしまいますので注意が必要です。
法違反とされた場合のリスクは無視できません。労働局による助言・指導・勧告の対象となりますし、勧告に従わないなど、悪質な場合は企業名が公表されます。また万が一訴訟に発展した場合、不利益取扱いが不法行為と認定され損害賠償請求を受ける可能性も考えられます。
4.まとめ

妊娠・出産・育児休業等の終了から1年以内に解雇や降格、減給などの不利益取扱いを行った場合は、当該事由を『契機として』行われたものと原則推定され、事業主が例外事由を証明できない限り、法違反と判断される可能性が極めて高くなり、労働局による指導や企業名の公表、訴訟による損害賠償請求といった重いリスクを負います。
どうしても不利益取扱いを行わざるを得ない場合には、その例外該当性を客観的・かつ合理的に証明できるように入念な準備が必要となります。
当事務所では、育児休業取得者への対応など、個別の労務相談にも対応させていただきますので、お気軽にご相談ください。
