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労務コラム
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作成日:2026/08/07
「精神障害の労災認定について、会社が知っておきたい3要件と対応方法【社労士が解説】

 社会保険労務士法人クリアパートナーズ 社会保険労務士の寺山です。
 近年、仕事によるストレス(業務による⼼理的負荷)が関係した精神障害についての労災請求が増加傾向にあります。特に令和7年度においては請求件数が前年比1,000件以上も増加しております(下図参照)。

厚生労働省報道発表資料「令和7年度『過労死等の労災補償状況』を公表します」別添資料2より抜粋、業務災害に係る精神障害の請求・決定及び支給決定件数の推移のグラフ
(厚生労働省報道発表資料「令和7年度『過労死等の労災補償状況』を公表します」別添資料2より抜粋)

 精神障害は、外部からのストレスとそのストレスへの個人の反応しやすさとの関係で発病に至ると考えられており、労災認定されるのはその発病が「仕事による強いストレスが原因である」と判断できる場合に限られます。そのため、請求されたものがすべて労災として認定されるわけではありません。令和7年度における決定件数(労災か、そうでないかを決定した件数)に対する支給決定件数(=労災認定件数)はおよそ3割程度となっています(上図参照)。
 本記事では、いかなる場合に精神障害が労災と認定され得るのか、従業員から労災申請希望を受けた際に注意すべき点などを詳しく解説いたします。


社会保険労務士法人クリアパートナーズ社会保険労務士寺山_顔写真


▼この記事を書いた人
社会保険労務士 寺山 晋太郎(Shintarou Terayama)
一橋大学社会学部卒業。大学卒業後、鉄道会社にて車掌や運転士といった現場仕事から労務管理・社員教育まで幅広い業務を担当。自身のライフステージの変化により、企業活動における「人」にフォーカスする社会保険労務士に魅力を感じ資格取得。現在は、社会保険労務士として「人」を活かし「会社」を発展させていくことを大切に、幅広い業種・職種・企業規模のお客様の支援に従事。
 


1.精神障害の労災認定フローチャート

 精神障害の労災認定の流れは以下の通りです。

厚生労働省発行『精神障害の労災認定 過労死等の労災補償U』p10より抜粋、精神障害の労災認定フローチャート
(厚生労働省発行『精神障害の労災認定 過労死等の労災補償U』p10より抜粋)

 次章以降で、本フローチャートについて詳しく解説いたします。

2.労災認定の3要件と詳細

 精神障害が労災と認定されるための要件は以下3つです。

@ 対象疾病を発病していること
A 対象疾病の発病前おおむね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
B 業務外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと
 
 @ですが、対象疾病とは、ICD-10という国際的な疾病分類で「精神および行動の障害」として挙げられているものの一部、例えばうつ病や不安障害、適応障害等が該当します(認知症やアルコール・薬物による障害などは除かれます)。
 次にAについては、どのようなものが「業務による強い心理的負荷」であったと認められるのかが重要となります。具体的には、発病前およそ6ヶ月間に起きた業務による出来事について、公開されている基準に基づき心理的負荷が「強」と評価される場合が該当します。
 しかしながら、Aにおいて「強」と評価されたからといって、直ちに労災の認定がされるわけではありません。最後にBにおいて、発病の原因が業務上以外にもあるのかどうかを評価します。この結果、例えばAにおいて心理的負荷が「強」と評価された場合であっても、業務外の大きな心理的負荷があった、もしくは顕著な個体側要因があったと評価され、むしろそちらが原因であると判断された場合は労災とは認定されないこととなります。あくまで、業務による強い心理的負荷が原因で発病したということが必要となります。
 
 まず、認定要件Aについての具体的な評価フローを次章で解説します。
 
 

3.業務による心理的負荷の評価プロセス:別表1の活用

 どのような流れで評価されるのかについては、「心理的負荷による精神障害の認定基準の改正について(基発0529第1号 令和2年5月29日)」の「別表1」に詳しく記載があります。
 まず「特別な出来事」に該当するものがないかが確認されます。これに該当した場合、心理的負荷は「強」と評価されます。該当するものは以下の通りです。

@ 心理的負荷が極度のもの
 生死に関わる極度の苦痛を伴う業務上の負傷や病気になったり、業務上他人を死亡させた場合(故意によるものを除く)など
A 極度の長時間労働
 発症直前の1カ月におおむね160時間超、もしくはこれと同等(例えば3週間に120時間超など)の時間外労働※を行った
 ※時間外労働=週40時間を超える労働時間
 
 次に「特別な出来事」に該当するものがない場合は、別表1の「具体的出来事」に実際の出来事を当てはめ、それぞれの心理的負荷強度を評価していきます。
 例えば、会社を倒産させかねない重大な仕事上のミスをし、事後対応にもあたったという場合は「強」と評価され得ますし、1カ月に80時間以上の時間外労働を行った場合は「中」と評価され得ます。
 また、出来事が複数ある場合は、それぞれの出来事の近接の程度や継続期間等を考慮して総合的に評価します。例えば、単体で「強」と評価されるものはないが、「中」と評価されるものが複数ある場合は、それらを総合して「強」と評価される場合があります。
 
 特筆すべきはハラスメントについてです。パワハラやカスハラ、セクハラ等についても別表1の「具体的出来事」に該当しますが、行為単体では「中」と評価されるものであっても、会社が何ら対応を取らず改善もなされなかった場合、それを考慮して「強」と評価され得ることになっております。各種法令によってハラスメントに対する対策を行うことは既に義務化されておりますが、当該義務を怠ると精神障害における労災認定にも影響を及ぼすということは留意しておくべきでしょう。なお言うまでもありませんが、ハラスメントの態様があまりにも酷い場合(執拗な反復・継続、治療を要する傷害を負わせた等)はそれ単独で「強」と評価され得ます。
 
 次に、認定要件Bについて解説します。
 
 

4.業務外の要因と個体側要因の考慮

 前述の通り、業務上の出来事における心理的負荷が「強」と評価された場合であっても、直ちに労災であると判断されるわけではありません。業務外の心理的負荷、もしくは個体側要因による発病の可能性も評価されます。
 前者については「心理的負荷による精神障害の認定基準の改正について(基発0529第1号 令和2年5月29日)」の「別表2」に基づき評価されます。具体的には離婚や家族の死亡、天災や火災などに被災したこと、多額の財産の損失など、心理的負荷が高い業務外の出来事があった場合はそれを踏まえて慎重に判断されます。
 後者については、精神障害の既往歴やアルコール依存状況などがある場合に、その内容について確認し、顕著な個体側要因がある場合には、それが発病の原因であると言えるか慎重に判断されます。
 これらを考慮し、業務外の心理的負荷や個体側要因が原因ではないと判断された場合、労災と認定されることになります。


5.その他

 労災保険法上、故意に負傷や死亡などを生じさせたときは保険給付されない、とされていますが(労災保険法第12条の2の2)、業務上の心理的負荷により精神障害を発病した人が自殺を図った場合には、精神障害によって正常な認識や行為選択能力などが著しく阻害された状態に陥った結果である(故意の欠如)と推定され、原則としてその死亡は労災認定されます。
 
 また、業務外の心理的要因により発病した精神障害であっても、業務による心理的負荷によって自然経過を超えて著しく悪化したと判断される場合、その悪化した部分については労災補償の対象となり得ます。
 
 複数の会社等で雇用されている労働者については、1つの勤務先の心理的負荷を評価しても労災認定できない場合は、すべての勤務先の業務上の心理的負荷を総合的に評価して労災認定できるかどうかを判断することとなります。
 
 

6.従業員から精神障害の労災請求を受けたら

 最初に理解していただきたいのは、労災に該当するかどうかを判断するのは労働基準監督署である、ということです。また、労災請求を行うかどうかを決める(請求権がある)のは従業員となります。そのため会社は、従業員からの精神障害の労災請求について、申請自体を行わないように働きかけたり、申請書類に必要な証明を拒否する等の労災請求を妨げる行為を行わないようにしてください。そもそも、会社には労災請求への助力義務があり(労災保険法施行規則第23条)、このような対応は、従業員との信頼関係を損なう行為のみならず、法令上も問題になる可能性があります。
 ただし、助力義務があるからといって、従業員の言い分を全て鵜呑みにする必要はありません。例えば、業務との因果関係が確認できない場合、事実関係について従業員の主張に疑問がある場合等では、証明欄に「当社では業務との因果関係について判断不能です。」といった、会社としての見解を記載したり、従業員が申請している内容に対する会社としての見解を別紙で作成して添付するということも可能です(労災保険法施行規則第23条の2において、事業主は労働基準監督署に労災請求について意見を申し出ることができる、とされているため)。繰り返しですが、最終的な判断は労働基準監督署が行います。
 
 従業員から精神障害の労災請求を受けると、会社としても感情的になりがちですが、労災請求が行われたこと自体を問題視するのではなく、まずは、事実関係を整理されることから始めます。例えば、勤怠記録、時間外労働時間、上司や同僚への聞き取り、メールやチャット等のやり取り、直近の業務内容、ハラスメント相談の有無等を整理します。そのうえで労働基準監督署に必要な書類を提出して、その判断を待つ姿勢が大切になります。
 また、同様な事案を繰り返さないように、事実関係を整理した中で、長時間労働が行われていた場合はその是正や36協定の運用状況の確認、ハラスメント行為が疑われている場合はその対策と相談窓口の整備など、職場環境の改善についても並行して検討されることをお勧めします。
 

まとめ

 従業員から精神障害の労災請求を受けた場合、会社は請求を妨げることなく、必要な助力を行う一方で、事実関係を客観的に整理して、会社としての見解を労働基準監督署へ適切に伝えることが重要です。
 また、労災認定の有無にかかわらず、安全配慮義務違反が問題となるケースもありますので、上記の労災請求への対応だけで終わらせず、再発防止の観点から、労務管理体制を見直すことも大切です。
 
 「労働基準監督署から会社にどのような調査が入りますか」等、より具体的なご質問等ございましたら、当事務所では、個別の労務相談にも対応させていただきますので、お気軽にご相談ください。
 
 
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