MENU
労務コラム
COLUMNS
作成日:2026/10/30
【社労士が解説】何が「労働時間」に該当する?更衣・待機・研修の判断基準と適正な管理実務

 社会保険労務士法人クリアパートナーズ 社会保険労務士の寺山です。
 従業員の労務管理や給与計算を適正に行う上で、「何が労働時間に該当するのか」を正確に把握しておくことは非常に重要です。特に更衣時間や終業後の後片付け、研修への参加などについては労働時間に該当するのか判断に迷うケースもあり、企業と従業員の間で認識のズレからトラブルに発展するケースも散見されます。
 そこで本記事では、労働時間の法的定義や「使用者の指揮命令下」という本質的な判断基準を正しく理解し、現場の実態に即した適正な管理を行うための基礎知識を解説します。


社会保険労務士法人クリアパートナーズ社会保険労務士寺山_顔写真


▼この記事を書いた人
社会保険労務士 寺山 晋太郎(Shintarou Terayama)
一橋大学社会学部卒業。大学卒業後、鉄道会社にて車掌や運転士といった現場仕事から労務管理・社員教育まで幅広い業務を担当。自身のライフステージの変化により、企業活動における「人」にフォーカスする社会保険労務士に魅力を感じ資格取得。現在は、社会保険労務士として「人」を活かし「会社」を発展させていくことを大切に、幅広い業種・職種・企業規模のお客様の支援に従事。
 


1.「労働時間」の法的定義と判断の基準

 適正な労務管理を行う上で、まず何が「労働時間」に該当するのかという法的な定義と判断基準を理解しておく必要があります。
 労働基準法上の労働時間とは、最高裁の判例に基づき、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義されます。使用者の指示によって労働者が業務に従事している時間は労働時間に該当します。
 この「使用者の指示」には、口頭や書面による「明示の指示」だけでなく、明確な残業の指示はしていないものの、業務量が多く定時ではとても仕事が終わらないような状況を会社が黙認しているような「黙示の指示」も含まれる点に注意が必要です。以下に具体的な例をあげます。
  • 明示の指示による労働時間の例:
    • 使用者や上司から直接的に業務の遂行、残業、居残りを命じられて作業を行う時間
    • 参加が業務上義務づけられている研修や教育訓練を受講する時間
    • 就業を命じられた業務に必要な準備行為(指定の服装・作業着への更衣等)や後始末(清掃等)を事業場内で行う時間
  • 黙示の指示による労働時間の例:
    • 明確な命令はないものの、業務マニュアルの記述や成果物の要求水準から、実質的に始業前の情報収集や準備作業を行わざるを得ず、それを使用者が認識しつつ容認している時間
    • 形式上は自由参加とされながらも、不参加に対して不利益な取り扱い(評価の低下や処罰等)が示唆されている、あるいは不参加では業務の遂行が不可能となる構造下で行われる研修・勉強会の時間
 なお、労働時間に該当すると判断される時間については、原則としてタイムカードやICカード、パソコンの使用時間の記録など客観的な方法により把握・記録する必要があります。

  

2.【実例解説】労働時間に「該当する場合」と「該当しない場合」の判断基準

 現場における各種行為が「労働時間」に該当するか否かは、使用者の指揮命令下に置かれていたかどうかの実態によって個別に判断されます。
これを踏まえ、問題となりがちな業務前後の準備・後片付け、仮眠・待機時間、教育訓練・研修の代表的な3つの区分について、具体例を解説します。
 
2.1 業務前後の準備行為・後始末・早出時間
  • 労働時間となる可能性が高い例:
    • 使用者の指示により、着用を義務付けられた所定の服装・作業着への着替えを事業場内で行う時間
    • 業務終了後の業務に関連した後始末(事業場内での清掃や片付け等)を指示されて行う時間
    • 義務付けられた朝礼や業務前の準備行為を行う時間
  • 労働時間とは評価されにくい例:
    • 制服や作業着の着用が任意であったり、自宅からの着用が認められている場合の更衣時間
    • 交通混雑の回避や会社の専用駐車場の駐車スペース確保等の理由で、労働者が自発的に始業時刻より前に会社に到着し、始業時刻までの間、業務に従事しておらず指示も受けていない時間(※執務室以外の休憩スペース等の利用提供も有効)

2.2 待機時間(手待時間)・仮眠・オンコール
  • 労働時間となる可能性が高い例:
    • 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することが求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
  • 労働時間とは評価されにくい例:
    • 週1回交代等で夜間の緊急対応当番(オンコール)を定め、社用携帯電話を持って帰宅するが、帰宅後は自由な利用・過ごし方が認められている当番日の待機時間
    • 仮眠室等における仮眠時間で、電話等に対応する必要がなく、実際に業務を行うこともない時間
    • ※なお、待機時間および仮眠時間自体が労働時間に該当しない場合でも、電話対応など実際に業務に従事した時間は当然に労働時間に該当します。

2.3 研修・教育訓練・勉強会・情報収集
  • 労働時間となる可能性が高い例:
    • 所定労働時間内(業務中)に実施される研修・教育訓練
    • 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間
    • 使用者が指定する社外研修について、休日に参加するよう指示され、後日レポートの提出も課されるなど実質的な業務指示による研修
    • 自由参加のサークル活動として位置づけられた勉強会であるが、使用者があらかじめ参加者・日時・場所を決定しており、参加後にレポート提出を求められ、遅刻や欠席に対して指導が行われているケース(学習塾の事例)
    • 形式上は自由参加の研修であるが、店舗商品の説明が主な内容で、受講することが正社員になるための要件とされ、参加できるよう使用者がシフト調整を行っていたケース(小売業の事例)
  • 労働時間とは評価されにくい例:
    • 業務上義務づけられていない自由参加の研修・教育訓練の時間(※不参加に対する減給処分や不利益な取り扱いがなく、事実上の強制がないもの)
    • 終業後の夜間に行うため弁当の提供はあるが、参加を強制せず、不参加について不利益な取り扱いもしない勉強会
    • 労働者が会社の設備を無償で使用することの許可をとった上で、自ら申し出て一人でまたは先輩社員に依頼し、使用者からの指揮命令を受けることなく勤務時間外に行う訓練
    • 会社が外国人講師を呼んで開催している任意参加の英会話講習(業務との関連性がないもの)
 

まとめ


 労働基準法上の労働時間か否かは、就業規則の文言や「自由参加」といった形式ではなく、「客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていたか」という実態によって判断されます。
 準備や研修、手待時間など、現場で曖昧になりがちなグレーゾーンを放置すると、未払い賃金などのトラブルにつながりかねません。自社のルールや業務フローを見直し、明示・黙示を問わず実態に即した適切な労働時間管理を徹底することが重要です。
 
 労働時間の該当性について、ご不明な点がございましたらお気軽にご相談ください。
 
 
▶︎ご相談はこちらから(初回相談無料)

 

無料相談・問い合わせはこちら(お問い合わせページ)