作成日:2026/03/13
【2026年4月施行】高年齢労働者の安全衛生対策ガイド|企業が取り組むべき「5つの措置」とは?【社会保険労務士が解説】
社会保険労務士法人クリアパートナーズ 社会保険労務士の寺山です。
こちらの記事でもご紹介した通り、2026(令和8)年4月に労働安全衛生法が改正され、高年齢者に対する安全衛生対策が企業の努力義務となります。少子高齢化が進む中、高年齢者が安心して働ける環境づくりは、企業の持続的な成長とリスク管理に直結する重要課題です。今回の記事では、上記法改正に基づき2026(令和8)年2月に厚生労働省より公示された「高年齢者の労働災害防止のための指針」に基づき、事業者が優先的に取り組むべき5つの措置を分かりやすく解説します。
▼この記事を書いた人 社会保険労務士 寺山 晋太郎(Shintarou Terayama) 一橋大学社会学部卒業。大学卒業後、鉄道会社にて車掌や運転士といった現場仕事から労務管理・社員教育まで幅広い業務を担当。自身のライフステージの変化により、企業活動における「人」にフォーカスする社会保険労務士に魅力を感じ資格取得。現在は、社会保険労務士として「人」を活かし「会社」を発展させていくことを大切に、幅広い業種・職種・企業規模のお客様の支援に従事。
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なぜ今、高年齢者の安全対策が必要なのか?
高年齢者は、長年の経験や知識という大きな強みを持つ一方で、身体機能の低下(視力・筋力・バランス能力など)による転倒や墜落といった労働災害のリスクが高まる傾向にあります。事実、高年齢労働者における労働災害発生率は他の世代と比較しても高く、労働災害による休業見込み期間も長いというデータが出ています。今回の指針は、こうした「高年齢者の特性」に配慮した職場づくりを事業者の努力義務として定めたものです。
事業者が講ずべき「5つの措置」
指針では、以下の5項目について、それぞれの事業場の実情に応じた積極的な取り組みを求めています。
1. 安全衛生管理体制の確立
まずは組織としての「姿勢」を明確にすることから始まります。
- 経営トップによる表明:安全衛生方針に「高年齢者の労災防止」を盛り込み、全社へ発信します。
- 体制の明確化:担当組織や担当者を指定し、組織的・継続的な体制を整えます。
- 労使での話し合い:安全衛生委員会等で高年齢者の対策を議題とし、現場の意見を吸い上げる仕組みを作ります。
2. リスクアセスメントの実施
現場に潜む「危険源」を特定し、優先順位をつけて対策を講じます。
- 危険の洗い出し:過去の災害事例や「ヒヤリハット」を活用し、身体機能低下に伴うリスクを特定します。
- 優先順位の検討::以下の順序で対策を検討することが推奨されています。
- 危険な作業の廃止・変更(設計段階の対策)
- 手すり設置や段差解消(工学的対策)
- マニュアル整備(管理的対策)
- アシストスーツ等の装着(個人用装備)
3. 職場環境の改善
設備面と運用面の両方から、身体機能の低下を補います。
- 設備・装置の導入:照度の確保、防滑素材の採用、中低音域の警報音(聞き取りやすさ重視)の採用などが有効です。
- 作業管理の見直し:短時間勤務や隔日勤務の活用、ゆとりのある作業スピードの設定、こまめな休憩の導入を検討します。
- 暑熱・重量物対策:涼しい休憩場所の整備や、アシストスーツ等の補助機器導入による負担軽減を図ります。
4. 健康・体力の状況把握と対応
本人と事業者の双方が、客観的にコンディションを把握することが重要です。
- 健康診断の徹底:診断結果の意味を丁寧に説明し、自覚を促します。
- 体力チェックの実施:フレイル(加齢による衰え)チェックやオンラインツールを活用し、継続的に測定することが望ましいとされています。
- 情報の取扱い:不利益な扱いを防ぐため、本人同意の取得や情報管理のルールをあらかじめ定めておきましょう。
- 健康・体力状況に応じた措置:状況に応じ労働時間短縮や作業の転換、働き方ルールの構築などを図りましょう。
5. 安全衛生教育の実施
高年齢者本人だけでなく、共に働く周囲のメンバーへの教育も含まれます。
- 本人向け:文字だけでなく、写真や図、映像を活用して分かりやすく伝えます。特に再雇用者など未経験業務に就く場合は丁寧な教育が必要です。
- 管理監督者・同僚向け:高年齢者の特性(災害リスクの増大)を正しく理解し、支援機器に触れる機会を設けるなどの教育を実施します。
国や専門機関の支援を活用しよう
自社だけで全ての対策を行うのが難しい場合、以下の支援制度を活用できます。
- コンサルティング:中央労働災害防止協会等の専門家による現場診断や助言
- 補助金:中小企業向けの職場環境整備に関する補助制度
- 事例集:厚生労働省やJEED(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)が公開している、他社での取り組み事例
まとめ:誰もが長く健康に働ける職場へ
高年齢者向けの対策は、会社全体にとっても「働きやすい職場づくり」につながっていく可能性を秘めています。まずは現状のリスク把握から、一歩ずつ取り組んでいきましょう。